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波の子 第三話 委員決め

 一部、前回までの話で修正した点があります。
・「——」←地の文内にあるこれを大半削除。
・前回戦った鋼田牛尾が2つ名について解説する描写を追加。この学校では、能力にちなんだ2つ名をつけられるとのこと。ちなみに、量ちゃんは『波の子』として噂が立っており、時期にそれが2つ名になると言われています。
・鋼田の能力を明記:『体を金属に変える能力』

<前回のあらすじ>
 量子は、『波の子』として噂になっており、メタルマンの2つ名を持つ上級生、鋼田牛尾に目を付けられる。
 体を金属に変える能力を持つ彼は、量子のレーザーを反射し無効化できたが、量子の攻撃手段はレーザーだけではなかった。量子は鋼田の体に電流を流し、見事返り討ちにしたのだった。


<本編>
「にしても、量ちゃんって電撃もできるんだな」
 帰り道、俺は量ちゃんに言った。
 波を制御する能力という、一見パッとしない能力。その能力の特性を生かし、レーザーを放てるようにしただけでも、すごいと思う。
 だが、量ちゃんができることはそれだけではない。電撃を当てたり、瞬時に全回復したり、いろんなことができる。もしかして、まだ見せていないだけで、もっとすごい技を持っていたりするのだろうか。
 ……にしても、量ちゃんが波を生み出せるのは知っているが、どうやったらそれが電撃につながるんだ? 意味がわからん。
 ただ、疑問に思っても、なんでって聞いたらまた、よくわからない長々しい説明をするだろうしなぁ。
 そう思っていると、量ちゃんは言った。
「はい、実はそうなのです。基本的に、波なら私は何でも出すことができるので」
「波ならなんでも、ねぇ。じゃあ、レーザーと同じように、電気も波ってことなのか?」
 ……しまった。質問してしまった。
 案の定、量ちゃんの顔はにこやかだ。今朝、長々とした説明を喰らった時と同じ顔をしている。
 量ちゃんは説明を始めた。
「実は、電気はまたレーザーとは違うのです。電気は波ではありません。電気には、大きく分けで2種類あります。直流と交流です。直流というのは、常に同じ電圧が掛かるものを言います。昔の携帯用ゲーム機に入っている、電池が直流ですね。それに対し、交流は時間変化でプラスとマイナスの両方向に波打つ電気のことを言います。例えば、家庭のコンセントから供給される電圧が交流電圧です。コンセントからは、最高プラス141ボルト、最低マイナス141ボルトの電圧が掛かり、この最高電圧から最低電圧になって、また最高電圧に戻るという繰り返しを、1秒間に50回行います。……正確に言うと、東日本の場合は50回、西日本の場合は60回です。東日本は50ヘルツ、西日本は60ヘルツとよく言われていますが、その話が今言った内容になります」
 ……案の定よくわからない。
「つまり?」
「家庭のコンセントで使っている種類の電気は、波の性質を持っているので私も出せます!」
 よくわからないが、コンセントの電気なら出せるそうだ。


 翌朝、クラスの朝礼にて、先生が言った。
「さて、1時間目のホームルームだが、委員決めを行う」
 委員決めかぁ。めんどそうだなぁ。
 先生は黒板に、委員の名前を書き連ねていく。
 学級委員、図書委員、風紀委員、文化委員、体育委員など。
 一通り書いたところで、先生は、
「では渡辺、この中でどれが一番重要な委員だと思うか、答えてみてくれ」
 なぜか俺が指名された。あまりクラスの中で発言したくないんだけどなぁ。
 まぁでも、どれが一番重要かなんて、決まり切っていないか?
「学級委員ではないですか? クラスのまとめ役でしょ?」
 俺がそう答えると、先生は頷いて言った。
「うんうん、……残念! 違うんだなそれが!!!」
「違うのかよ!?」
 思わずノリツッコミしてしまった。あまり発言したくないのに。
 先生は言う。
「普通の高校なら、学級委員で正解。だけど、ここはあいにく普通の学校ではない。この学校と普通の学校との違い、分かるかな、渡辺。さぁ、リベンジリベンジ」
 また俺に振ってきた。発言はしやすいんだけど、発言そのものをしたくないからやめてほしい。
 とりあえず、テキトーに思ったことを言っておくか。
「えっと……普通の学校と違って、治安が悪い、とか?」
 ……しまった。これは先生に言っちゃマズかったか?
 伊賀野や鋼田の件もあり、治安が悪いのは事実だし、先生方も認識してるとは思うが。反感買いそう。
 そう思っていると、先生はこう言った。
「正解!!!」
「合ってるのかよ!?」
 また思わずノリツッコミしてしまった。自分で答えておいて、『合ってるのかよ』はさすがにないな。反省します。
 先生は説明する。
「そう、この学校は治安が悪い。みんながみんな悪いわけじゃないが、喧嘩っ早く唐突に他の人を襲うような人も少なくはないしね」
 先生は伊賀野を見ながら言った。
「あぁ? 急にコッチ見やがって、何か文句でもあんの……ぶっ!?」
 伊賀野がかみつくと、突然伊賀野の頭上から錆びたたらいが降ってきた。
 伊賀野はめちゃくちゃ痛そうに頭を抱えている。
「先生に喧嘩腰なのはいけないなぁ。伊賀野ちゃんだけでなく、みんなも先生を舐めてると、文字通り痛い目に遭わせるからね?」
 地味にこえぇ。たらいが降ってきたのは、先生が能力を使ったからなのだろう。
 先生は説明を続ける。
「治安が悪いこの学校にも、風紀委員は存在する。風紀委員になったからには、正義感を持って悪い子たちを取り締まらないといけない。だけど、当然ながら弱い子が風紀委員をやって対応にあたっても、返り討ちに遭うだけだ。だから、学校の秩序を守るためにも、風紀委員だけは慎重に、悪さをしないような、一番能力勝負が強い子を選ばないといけない」
 学校の秩序はすでに守られていないと思うが。……ここは触れないほうがいいか。
「そういうわけで、風紀委員だけは先生が指名するよ! 量ちゃん、是非とも風紀委員をやってもらえないかな?」
「私!? 私ですか!? 私まだ9歳ですよ!? 舐められちゃいますよ!!」
 嫌がる量ちゃん。いや、お前の強さなら舐められないだろ。
 悪さをしないような、一番能力勝負が強い子。……うん、どう考えても量ちゃんだろうな。
 先生は言う。
「嫌がるようなら言っておくが、JACOB(ジェイコブ)に就職できた卒業生は、みんな風紀委員だったぞ?」
 その言葉を聞いて、量ちゃんは固まった。
 JACOB、俺でも知っている超有名な組織で、日本の誇る能力機密組織のことだ。
 強力な能力は、戦争で使われる兵器を圧倒したり、無力化できる。そのため、各国は能力機密組織を独自に持っていて、軍隊や兵器の代わりとしている。だから、どの国も強力な能力者を発掘し、能力機密組織に取り入れようとしているんだ。
 日本のそれが、JACOBだ。もし就職できれば、相当の報酬と待遇を得られるだろう。
 さらに言うと、JACOBが表立って何か活動しているといった情報はない。組織としてあるだけで、何も仕事をしていないのではないかとも噂されている。もしかすると、JACOBに就職できれば、働かずに相当な収入が得られることになるんじゃなかろうか。
 先生は続けて説明する。
「でもって、もし年のことも気になるようであれば、委員会とかに渡辺も連れていけばいいだろ。そもそも、風紀委員の中で一番強いとされる風紀委員長も、12歳くらいだ。年については、あまり気にしなくていいと思う」
 あ、そうだ、と先生は続ける。
「念のため聞くが、量ちゃんより強いと思っているやつはいるか?」
 先生がそう言うと、1人、静かに手を挙げた男がいた。
「能力だけでいえば、私の方が強いと自負していますが」
 そいつは、ストレートにメガネという、まじめ君っぽい見た目をしている。見た目で人を判断してはいけないが、いかにも面倒そうな雰囲気がある。
「まさか、本当に量ちゃんより強いと思っているやつがいるとはな。風紀委員を勝ち取りたいなら、今から2人で能力勝負をしてもらうことになるが?」
 先生の言葉を聞いて、量ちゃんは嫌そうな顔をする。お前、平和主義だもんな。
 ただ、その男はメガネをクイッと上げて、こう言った。
「……ですが、私は学級委員を狙っています。欲を言えば、委員長の座を。……ですので、風紀委員を決める勝負からは降りましょう」
 え。何がしたかったんだコイツ。
「そうか。では、いかにもな君は、委員長と呼ぶことにしよう」
 先生、そこまでするとイジメでは?
「……ありがたきお言葉」
 委員長は、なんで感謝してるの? あと、今回君がなろうとしているのはまず学級委員だよね? 委員長じゃなくて。
「そういうわけで、風紀委員は量ちゃんに決定。補佐として、渡辺もついてもらうぞ」
 さりげなく俺も風紀委員の枠に組み込まれた。正直嫌なんだが……。発言する勇気のない自分を呪いたい。
 量ちゃんは、不服そうに、
「……わかりました」
と了承した。
 なお、委員長は見事学級委員を勝ち取ることができましたとさ。委員長にもなれるといいね。1年生でなれるのか知らないけど。


 昼休み。
 俺と量ちゃんが弁当を食べているところに、伊賀野が弁当を持って入ってきた。
「邪魔するよ」
 ……え? 何なのコイツ。
 しれっとやってきたけど、お前俺たちに何したか忘れたの?
 俺の記憶では、仲良く3人囲んでお弁当を食べる仲ではなかったと思うんだけどなぁ。
 伊賀野は弁当を広げて言う。
「お前らの仲間に入れてくれないか? アイツらとつるむより、上級生に噂されてるお前とつるんでいた方が、この学校で名をはせやすいと思ったんだよね」
 コイツ、正気か?
 確か、伊賀野の目的は、強い能力者として名をはせることだったはずだ。俺たちに喧嘩を売ってきたのも、まず弱そうな相手から倒していこうとしていたから。
 ただ実際、量ちゃんの能力が想像をはるかに超えて強かったため、上級生に量ちゃんの能力の噂が広まり目を付けられた。昨日、メタルマンこと鋼田に挑まれたのも、そのためだ。
 そう考えると、量ちゃんの仲間になることで注目されたいという、伊賀野の思惑は分からなくもない。
 しかしだなぁ。
「お前、俺たちに何をしたか忘れたのか? 仲間になりたいなら、まず謝るべきことがあるんじゃないのか?」
 さすがに、下校途中に襲ってきたり、イジメっ子よろしく机に罵詈雑言の落書きをしたのは、謝罪もなしには水に流せないぞ。
 ……正直、伊賀野に謝罪を要求するのは怖いけど、近くに量ちゃんがいるからな。虎の威を借る狐だ。何も恐れることはない。
 すると、伊賀野は、
「謝らなかったら、どうするって言うんだ?」
 そう言って、伊賀野は睨んできた。
 ……やばい、言葉の選択を誤ったか。怖い。言葉を撤回したほうがいいのかな。
 そう思っていると、伊賀野は続けてこう言った。
「……お前らに酷い仕打ちをしたのは事実だ。悪かった。正直、謝っても許されないと思っている」
 あれ? 伊賀野のやつ、急に素直になったな。特に量ちゃんが何かをした様子もない。
 伊賀野は言葉を続ける。
「だが、お前らが許さなくても、アタシはアタシの目的のためにお前らの仲間になる。お前らがどう思おうが、関係ない」
 何がしたいのか分からねぇ!! どういうこと!? お前の中で、『仲間』という言葉の定義はどうなってんの!?
 量ちゃんは、やさしく伊賀野の肩を叩く。
「伊賀野さんの考えは理解しました。私は、伊賀野さんを許しましょう」
 理解できたの!? すごいね、君の理解力!!
 量ちゃんは続けて言う。
「ですが、剣也さんが許せないなら、私は伊賀野さんを排除することにします」
 そう言って、量ちゃんは手のひらを伊賀野に向ける。
 量ちゃんの手のひらは、まるで光が集まっていくかのように輝きだした。何か、特大レーザーを発射するために溜めてるように見える。
 にしても、何で俺が出てくるの!? 量ちゃんが許したならいいじゃん!! ただでさえ伊賀野怖いから、俺に振らないで!!
 ……もしかして、量ちゃん自身許せないけど、感情を表に出したくないから俺に振ってる感じ?
 もしそうだったら、9歳なんだから、もっと感情を表にだしてもいいのよ?
 対して、伊賀野が言うには、
「好きにしな! お前が排除しようが、アタシは何度だってお前の前で立ち上がってやる!! 仲間になるために!!」
 ダメだ! こいつダメな子だ!
 一応、謝るには謝った気がするし、なんか納得いかないけど仕方ない!
「分かった! 俺も許す! だからその手を止めてくれ量ちゃん!」
 俺がそう言うと、量ちゃんの手は輝きを止めた。
「……わかりました」
 残念そうな表情で、量ちゃんは言った。お前、本当に伊賀野を許してるの?
「では、これからは仲間としてお願いしますね、伊賀野さん」
 そう言われ、伊賀野は脱力した。
 まぁ、真面目に謝ろうとしなかったお前が悪い。素なのかもしれないけど。


「そう言えば、量ちゃんの能力は波を制御する能力だよな? どうして、レーザーとか打てるんだ?」
 伊賀野が言った。
 ご愁傷様。これからお前は、量ちゃんの長い解説を聞くことになる。あの、全然内容が理解できない、解説をだ。
 後悔してももう遅い……、って、俺も聞くことになるじゃん!? また聞かされるのかよ!?
 量ちゃんは口を開く。
「レーザーは波なので、私の能力で出してるだけです」
 ……ん? それだけか?
 ワープロソフト8行分くらいの長さの解説だった気がするんだが。
「……昨日見せた電撃は?」
「交流の電気は波なので、私の能力で出してるだけです」
「ちょくちょく使ってる回復魔法みたいなのは?」
「物質は波なので、私の能力で体の組織を作り出してるだけです」
 最後のは初めて聞いたな。
 でも、なるほど。量ちゃん、結論しか言ってないな。
 ワープロ8行分くらいの長い解説がないのはそれで楽に聞ける気もするが、……長い解説がされると、理解できなくても何となくわかった感じが出るんだよな。
 それがないせいか、伊賀野は何が何だか分からないといったような、困った顔をしている。
「あのさ、『波なので』じゃ分からないんだけど。イマイチ分からないんだが? もうちょっと補足説明とかないの?」
「物理学のお話でしたらできますが、聞きたいですか?」
「物理学? ……まぁ、補足説明してもらえるなら」
 伊賀野がそう言うと、量ちゃんの笑顔が輝く。よっぽどウンチク語るのが好きなんだな、この子。
「では説明しますね。私の能力は、ご存じの通り波を制御する能力。波というのは振幅、波長、位相などのパラメータを持ったものであり、そのパラメータを私の能力で自由に変更できるわけです。例えば、後で説明しますがレーザーとは波であり、空気中にレーザーが発生していない状態を振幅ゼロとみなせるわけです。その状態で私の能力を使い、振幅をゼロから千に変えることでレーザーを発生……」
「ちょっと待って、タイム。悪かった。謝るからそういう勉強みたいな話は勘弁してくれ。他に何か、たとえようがないのか?」
 伊賀野が静止した。そうか、この手があったか。こういえば、長い解説を止めてくれるのか。
 しかし、量ちゃんは静止されて、とても悲しそうな顔をしている。
「そう……言われましても。私の能力は、ただ波を制御できるだけなのです。物理学で音や光など、様々な波が出てきます。私が出したレーザーも電撃も回復も、物理学を理解した上で応用を利かせて出しているだけなのです。だから、物理学の説明なしで分かりやすい説明はできません」
 量ちゃんは言った。
 言い終わってもなお、量ちゃんはとても悲しそうな顔をしている。ウンチク話を途中で止めちゃだめだったか。
 なら、せめて、
「あのさ、量ちゃんが最後に言っていた、回復の説明ってまだ俺聞いてないと思うんだけど、お願いできないか?」
 俺がそう言うと、量ちゃんの顔が晴れた。
 まぁ、なんだ。尊い犠牲ってやつだ。正直、長いウンチク話なんてできれば聞きたくないんだが、量ちゃんの心を晴らすためには仕方ない。
 伊賀野が睨んでくるが、……いやでも元はといえばお前のせいだろ。諦めてくれ。
 しかし、解説を始めるかと思ったら、量ちゃんは浮かない顔で言った。
「でも、時間はあまりないみたいですね。ごめんなさい、説明はまた今度させてください。今は、早くお弁当を食べないと」
 俺は時計を見た。現在13時30分。昼休み終了まで、あと10分しかない。
「マジかよ。話すのに夢中になりすぎたな。早く昼飯食べないと。ついてないなー」
 俺はそう言いながら、神様ありがとう、と内心思うのだった。


 放課後、委員会室前。
 俺は量ちゃんに付き添い、ここに来た。
 風紀委員(正確には、その補佐)に決まった今日、さっそく風紀委員会がここで開かれるようなのだ。
 今朝聞いた話だと、この学校は風紀が守れていない。そして、その守れていない風紀を守るのが、この風紀委員。
 ……嫌だ、そんな委員会に参加したくない。どんな連中がいるのか、想像もしたくない。帰りたい。
 しかし、量ちゃんは扉を開けてしまう。うう……、もう逃げられない。
 中に入ると、すでに10人くらいが集まっていた。
 中にいた人で、見た目が気になるような人はいない。
 ……いや、1人いた。
「よう、遅かったな。お前が波の子か?」
 12歳くらいの少年が言った。量ちゃん以外で、この学校で子供を見るのは初めてだ。
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波の子 第二話 鋼の漢

 大分テキトーに書いてるから、推敲頑張る必要がありそう。
 キャラの口調とか、全然定まってない感じがする。


<前回のあらすじ>
 能力者が集まる高校に入学した主人公、渡辺剣也は9歳の飛び級少女、量子と出会う。(通称、量ちゃん)
 波を制御する能力という、パッとしない能力を持った少女だが、なぜかレーザー光線を放ち、イジメっ子の伊賀野とその取り巻きを撃退する。


<本編>
 休み時間。
「剣也さん、その……、嘘をついていてごめんなさい!」
 量ちゃんは俺に言った。
 嘘? ……もしかして、能力のことか?
 正直、伊賀野たちを難なく倒したことには驚いている。大した能力じゃないとか言っておいて、結構強力な能力を持っていたとは。
 普通に考えて、9歳の子が飛び級で入学できている時点で、何かしら特別な理由があってしかるべきなんだよな。いじめに遭っていたってだけで、飛び級できるわけがない。
 とりあえず、俺はこう言うことにした。
「能力のことは本当に驚いたよ。でも、なんで嘘なんかついていたんだ?」
「実は私、争いごとが好きではないのです。私の持っている能力が強いと思われたら、何かしら争いごとに巻き込まれるのではないかと思い、先生にもご協力いただき、大した能力は持っていないというフリをすることにしました」
「先生も絡んでいたのか。それで、先生もさっき、ああ言ったんだな」
 『量ちゃんがその能力を隠し通せるとは思っていなかったけど、ひどくやってくれたね。伊賀野さんも、これに懲りたら過激な活動はやめなさいね』。先生はこう言っていた。
 先生も量ちゃんの能力を隠すことに協力していたが、案の定こうなったという言い方だ。
 あと、伊賀野クラスでは太刀打ちできないくらい強い能力だと言っているようにも聞こえる。
 能力がバレると、争いごとに巻き込まれるくらい注目を浴びる能力だと、量ちゃんは言った。
 ということは、コイツが持っている能力は、一体どんな能力なんだろう? ……気になる。
「それで、量ちゃんの能力は、本当はどんな能力なんだ?」
 俺がそう言うと、量ちゃんはキョトンとした。
「どんな能力って、……波を制御する能力ですが」
「……え? いやでも、実際その能力は嘘で言っていたんじゃないのか? 本当はもっと強力な能力なんだろ?」
「えっと、勘違いさせてしまってごめんなさい。私の能力が、波を制御する能力というのは本当のことです。ただ、この能力は飛び級を認められるくらいには強い能力なのですが、あんまりすごくないと、嘘の説明をしていました」
「そうは言っても、……さっき、レーザーとか飛ばしてたけど、あれもその能力で出せるのか? とても『波』って感じじゃないと思うが」
 俺がそう言うと、量ちゃんは目をキラキラさせて説明を始める。
「それがですね、私の能力で簡単にレーザーが出せるのですよ。実は、私たちが普段目にしている光は、波の性質を持っています。光とは波、といっても過言ではありません。私たちの周りでは、色々な周波数、位相の光が混ざり合っていて、私たちの目に映っています。レーザーというのは、同じ周波数、同じ位相の光を重ね合わせることで、ものすごく強くなった光のことです。私の波を制御する能力は、どんなに大きい『波』をも作り出すこともできます。その『波』の中は、当然『光』も入っています。レーザーも光。レーザーの強さは、その光の振幅によって決まります。なので、私の能力によってレーザーを放つことは、とても簡単なことなのです!」
 ……相変わらず、コイツの説明は何を言っているのか、よくわからねぇ。
「えーと、……ごめん、もうちょっと簡単に説明して。つまり、どういうこと?」
「つまり、レーザーは波なので、私の能力で簡単に作り出せます!」
 マジか。レーザーって波だったんだ。
「でも、量ちゃん他にもいろいろとすごいことやっていたよな? 伊賀野の放ったおはじきを全弾すり抜けさせてかわしたり、そもそも今朝まで負ってた大けがも一瞬のうちに全回復していたような……」
 ここで、休み時間終了のチャイムが鳴り、同時に先生が入ってきたので、俺は話を切り上げた。
 ……レーザーの説明であれだけ難しいことを語っていたんだし、これ以上難しい説明を聞かされたら頭がこんがらがる。今聞かなくて、ちょうどチャイムが鳴って、良かったのかもしれない。


 昼休憩中。伊賀野たちは水場で机を洗っていた。
 机に書かれた罵詈雑言の落書きは剣也にあてたものであったが、伊賀野が目を覚ました時には自分の机と入れ替えられていた。
 量子が自分より強いと分かった以上、この机は伊賀野が使うしかない。なので、できるだけきれいにしようとしている。
 しかし、チョークの部分はある程度落とせるが、油性マジックで書いた部分はさすがに水ではきれいにできない。
「クソッ、なんでウチらがこんな目に!!!」
 伊賀野に付き添っていた2人のうち1人、荒木かがり(あらきかがり)が言った。
「負けから仕方ねぇよ。チョークはカスがつくから洗い流したいけど、マジックは水じゃ落ちないだろうし、そのままでいいよ」
 伊賀野が言った。すると、荒木じゃないもう1人の方、佐藤由紀実(さとうゆきみ)は、
「でも、悔しいじゃんか!! 何かないんか、あのガキをギャフンと言わす方法が、何か!!」
「……なくはない。だが……」
「あるのか!! 何か良い方法が!! 一体どんな方法なんよ!!」
 伊賀野の言葉を聞き、由紀実は驚いた様子でそう言った。
 しかし、なぜか伊賀野は答えようとしない。
 代わりに、後ろから男の声が聞こえた。
「『ソイツよりも強いヤツに協力してもらい、けしかける』だろ? 違うか?」
「……お前は?」
 伊賀野は振り返り、男を睨みつけながら言った。
 その男は、ガタイの良い、屈強そうな男だった。
 男は言う。
「俺は2年の鋼田牛尾(こうだうしお)。お前らだな。波の子にやられたやつは」
「波の子?」
「ああ。9歳で飛び級してきた、波を操る感じの能力の子が噂になっている。それで、その噂の波の子にやられたのは、お前たちだな?」
「そうだ。……もしかして、アンタがアタシらのかたきを取ってくれるってことか?」
「ああ、生意気だからな。この学校に入学して早々、大した能力でもないのにチヤホヤされてよ。この俺が直々に、この学校の厳しさってやつを教えてやる」
「……アイツの能力を見くびらないほうがいい。アタシもレーザーで全身黒焦げにされたんだ。おまけに、謎の回復能力も持っている。今、アタシらは無傷だが、それはアイツのその回復能力で治してもらったからだ。その他、アタシの遠距離攻撃をすり抜けたり、とにかく謎が多いから気を付け……」
「見くびらないほうがいいというのは、こっちのセリフだ」
 伊賀野の助言を、鋼田が遮る。
「上級生にも恐れられる、メタルマン、鋼田牛尾の敵ではない」


 昼休憩が終わるまで、あと10分弱。
 次は移動教室なので、そろそろ移動する必要がある。俺と量ちゃんは教室を出た。
「ぶっつり~♪ ぶっつり~♪」
 量ちゃんは何やら楽しそうに歩いている。……あまり他の生徒たちに受け入れられなさそうな言葉を口にしながら。
「……どうしたんだ?」
「次の時間は、待ちに待った物理の時間なのです。私の大好きな科目なのです。小学校で習っていた理科は、知っていることばかりで退屈でしたが、高等教育の物理……楽しみです!」
 理解ができん。なんだコイツ。
 小学校の理科の授業は、割と楽しかった記憶があるけどな。どんなことをやっていたか、記憶にないが。
 そんな感じで歩いていた、その時だった。
「お前か、波の子は」
 屈強そうな男が目の前に現れ、言った。
「この鋼田牛尾が、粛清してやろう」
 鋼田と名乗ったその男は、そう言った後腕をまくり、突然量ちゃんのお腹に拳を叩き込んだ。
「がぁっ!?!?」
 殴られた後、量ちゃんは吐血した。その血は鋼田の腕にかかる。
 よく見ると、鋼田の腕は銀色になっていた。金属のような光沢もある。
「オイオイ、きたねぇなぁ。まぁテメーの服で拭くからいいけどよぉ」
 そう言うと、鋼田は量ちゃんの背中に腕をぬぐい、血を拭き取った。
「金属だと水をはじくから、布で拭けて便利だよなぁ。感覚もなくて、汚物が掛かっても不快感がほとんどない」
 金属の腕をきれいにすると、鋼田はその腕を生身の腕に戻した。
 何が起きているのかよくわからないが、これが鋼田の能力なのだろう。
 すると、鋼田は俺の方を見た。俺にも何かしてくるのか? やめてくれよ。俺こんな目に遭いたくない……。
 そう思っていると、鋼田は口を開いた。
「忠告しておいてやろう。この学校では、強いものが絶対だ。普通の中学に通っていたなら、俺の行動を異常だと思うだろうが、この学校ではこれが普通だ。強いと騒がれているやつを倒し、力を誇示しようというやつは俺以外にもいる。痛い目に遭いたくなくば、あまり目立つような真似はしないことだな」
 そう言って、鋼田は階段を昇って行った。
 ……助かったのか、俺は。
 ……そうだ、量ちゃん!
 痛い目を見たくないがために自分以外のことを考えられなかったが、量ちゃんは吐血するぐらい強い攻撃を喰らったんだ。
「オイ! 大丈夫か!? しっかりしろ!!」
 大丈夫ではないと思う。やはり、声を掛けても体をゆすっても、返事がない。
「どうすれば……」
 俺が困っていると、突如、量ちゃんが目を見開いた。
「そろそろ行きましたね。では、ヒーリング!」
 そう言うと、量ちゃんの服についた血が瞬時に消え、量ちゃんはむくりと起き上がる。おそらく、怪我を治したのだろう。どういう原理かは知らないが、波を制御する能力で自分や他人が負った怪我を、瞬時に治すことができるみたいだ。
 ……聞けばどうやって怪我を治しているのか教えてくれるとは思うが、コイツのことだ。難しい説明を始めると思うからあえて聞いていない。
 量ちゃんは言う。
「私だって目立ちたくはなかったのですよ。抵抗せずおとなしくやられたので、もう狙われなくなると良いのですが」
 量ちゃんが今朝言っていた、『私の持っている能力が強いと思われたら、何かしら争いごとに巻き込まれるのではないかと思い』というのは、こういうことか。
 ……俺、この学校を卒業するまで、5体満足でいられるかな?


 量ちゃんの楽しみにしていた、物理の授業が終わった。
 俺たちは1年A組の教室に変えるべく、廊下を歩いている。
 量ちゃんは、不満げに言う。
「これが高等教育ですか? ボールを転がしたり落としたり、子供じゃないんですから」
 いや、お前は子供だろ? 9歳だろ?
「でも、今日のは導入みたいなもんだって、先生も言ってただろ? 坂を転がるボールの絵をかいて、そこに矢印をいっぱい書いてたけど、ああいう授業が物理って感じなんじゃないのか? そういう話も、今後の授業でやっていくって言っていただろ?」
 俺にはその授業の内容がよく分からなかったが、重力とか、垂直抗力とか、摩擦力とか、いろんな力を矢印で引いていて、簡単に説明していた。それぞれの詳細な説明は、今後の授業でやるらしい。
 だが、量ちゃんは言う。
「あんなの初等力学の基礎の基礎です! 知ってて当然なのです!」
 いや知らんがな。
 よく考えると、量ちゃんって大学の教科書とか読んで勉強してるって言ってたっけ? 多分、物理とやらにめちゃくちゃ精通してるんだろうな。……それなのに、よく高校の授業を楽しめると思ったな。
 ……ん? 遠くに、さっき会った鋼田と、伊賀野たちの姿が見えるような……?


「かたきを取るという依頼は達成したから、謝礼として20万いただこうか」
 鋼田は言った。伊賀野は眉をひそめて言う。
「かたきを取った? 何を言ってんだ? 量子のヤロー、普通にピンピンしてたぞ? それに、20万ってどういうことだ?」
「ピンピンしてた? 言いがかりはよすんだな。俺は、お前の望み、かたきを取りたいという望みをかなえてやった。その報酬が、たったの20万円だ。払えないというなら、払うまでお前らを痛めつけてやるが、どうする?」
 鋼田はそう言うと、全身を金属に変化させた。
「よくわからんが、やる気か? なら、これでも喰らえ! グラスファイア!」
 伊賀野の手から、大量のおはじきが放たれる。
 おはじきはガラスでできている。それも、かなり高速で放たれるため、生身の人間がこの技を喰らったらただでは済まない。
 しかし、そんな技も金属の体の前では無力だった。ただ、体に当たったおはじきが砕けるだけ。
 砕けたガラスを、何事もないように踏みしめ、鋼田は伊賀野に近づいていく。
「くだらん真似を。では、望み通り痛い目に遭わせてやろう」
 そう言って、鋼田は伊賀野に金属の拳を突き出そうとする。
 伊賀野は覚悟を決め、目をつむった。
 その時、
「危ないっ! ……がはっ!?!?」
 横から量ちゃんが飛び込み、伊賀野を突き飛ばして庇った。
 量ちゃんはそのまま鋼田の拳に吹き飛ばされるが、瞬時に回復し、鋼田に向き合う。
「これ以上争いごとを引き起こしたくないのでわざと倒されたのですが、それでも他の人に危害が及ぶ可能性があるのですね。それでしたら今後は、襲ってきた人をみな、返り討ちにするとしましょうか」
「ほう。戯言を。……にしても、ピンピンしているというのは本当のことみたいだな。なら先に、波の子から片付けよう。20万はその後だ」
「私のクラスメイトを傷つけるというのであれば、あなたを許しません! 喰らいなさい! フィンガーレーザー!」
 量ちゃんの指から、レーザーが放たれる。
 しかし、鋼田はレーザーを受けても痛がる様子はなく、何事もないかのように動き出す。
「無駄だ! 俺の体は金属光沢を帯びている! 光など反射するのだ!」
 鋼田は言う。
「お前らは入学したてだから俺のことを知らないだろう。俺の2つ名はメタルマン。『体を金属に変える能力』を持っている」
「2つ名?」
 疑問に思い口に出してしまったが、言葉を発したせいで俺は鋼田に睨まれた。……うかつに喋らない方がいいな。気を付けよう。
 鋼田は説明する。
「この学校では、噂になった能力者に2つ名をつけることが多い。大抵は、その人が持っている能力に関連する名前をつけられるのだが、あくまで、うわさ話で自然と出る名前だからな。稀に例外もいる。ソイツも、能力がよく知られずに突発的に噂になったから、何か波を操る感じの能力を持っている子という意味で、『波の子』って呼ばれているからな。時期にそれが2つ名になるだろう」
 鋼田が量ちゃんを指して言った。量ちゃんは嫌そうな顔をする。
「えぇ……。ダサくないですか。もうちょっとイケてる感じの2つ名が良いのですが。『ウェーバー』とか、『ウェーブコントローラー』とか」
 お前の発案も、そんなにイケてる感じないけどな。
 そんなやり取りをして気を緩めた瞬間、突然鋼田は距離を詰める。
「何を呑気にしている!? 今は戦闘中だ! お前の攻撃手段はレーザーのみ! だが、それもこの俺には通用しない! 今一度、俺の拳をまた喰らうがいい!」
「……何を勘違いしているのですか?」
 鋼田の拳を真横によけ、量ちゃんは言った。
 そのまま量ちゃんは、鋼田の体に手を触れる。
「……ひょ?」
 量ちゃんの奇抜な行動に、驚いて変な声を出す鋼田。
「一体いつから――、レーザー攻撃しかできないと錯覚していたのです?」
 量ちゃんがそう言うと、鋼田の体が生身に戻った。
「お前、何をした……? まさか……!?」
 鋼田は、驚いたような声で量ちゃんに言った。
 量ちゃんは言う。
「やはり、金属ならこれが弱点でしたか。今、あなたの体に、微弱な電流を流しました。金属の体に大電流を流しては、命を落としかねないと思いまして」
「や、やめ……」
「エレキショック!!」
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁ」
 量ちゃんの電撃を受け、鋼田は叫び、泡を吹いて倒れた。

波の子 第一話 波の能力者

 ひっさびさの更新になります。そのうちなろうにも上げるかも。


<本編>
 ある時、突如として『能力』を持った人間が誕生した。
 炎を発生させる能力、氷を生み出す能力など、ある日を境にごく一部の人間がそういった『能力』を持って生まれてくることとなった。
 以降、戦争のない平和な時代が訪れることとなった。その理由は、いくつかある。極めて強大な能力は、兵器による武力を無力化できてしまうこと。各国が強力な能力者による機密部隊を持ったことで、兵器による戦争が無意味と化したこと。どの国も相手の戦力が知れず、互いに手出しができない状態となったこと。能力によっては、相手のトップの首を容易く落とすことができてしまうこと、などなど。
 よって、どの国も強力な能力者を求め、独自の政策を取るようになった。それは、日本も例外ではない。


 日本能力開発高校。能力者なら、だれもが入学することのできる高校だ。
 一般的な高校と同じ内容を教えるが、能力を将来の職にどのように活かすかを教員が一緒に考え、手厚い就職サポートを行ってくれるため、能力者にとっては普通の高校に通うよりはこの高校に通った方が将来安泰するだろう。そのため、この高校には日本中の能力者が集まることとなる。その中で、極めて優れた能力者を日本の軍事力として引き抜くことが、この高校の真の目的だ。


 そんな高校に俺、渡辺剣也(わたなべ けんや)は入学することになった。
 入学式の会場である体育館へ向かい、自分の席を探す。
 まだ入学式開始まで時間があるからか、生徒はほとんど席にいない。だが、俺が自分の席を見つけた時、その席の隣で小学生くらいの女の子がいた。
 この高校には、飛び級での入学制度が存在すると聞いたことがある。なんとも、あらかじめ国から優れた能力者だと認められれば、中学を卒業しなくてもこの高校に入れるのだそうな。この子も、おそらく飛び級で入学する子なのだろう。
 その子の席の隣には、俺と同じくらいの年の女子がいて、その小学生くらいの子としゃべっている。
 俺は自分の席に座った。コミュ障だから、できれば俺にも話かけてほしいなと思ったが、声を掛けられることはなかった。
 ……もしかすると俺、こんな感じで誰にも話し掛けられず、ぼっちになるんじゃないだろうか? 俺は能力も地味で、目立たなそうだし。……なんか、まだ入学式なのに今後の高校生活が不安になってきた。


 しばらく2人の話を横から聞きながら、俺はぼーっとしていた。やはり、隣の小学生くらいの女の子は見た目通りの年齢で、9歳なのに飛び級で入学できたみたいだ。
「飛び級ってことは、リョウちゃん、めちゃくちゃすごい能力を持ってるってことだよね!?」
 俺と同じくらいの年の女の子は、リョウちゃんと呼ばれた小学生くらいの女の子にそう聞いた。
 しかし、そのリョウちゃんという女の子が言うには、
「それがですね……、私の能力は『波を操る能力』なんですよね。そんなにすごくないんです」
「えぇ!? 意外!! ……って言ったら、失礼だよね、ゴメンね。かく言う私も、自分の意志で能力を発動できないし、落ちこぼれ能力者だけどね。『想像を現実にする能力』なんだけど」
「えっと、能力の名前だけ聞くと、とてもすごそうな能力に聞こえるのですが、違うんですか?」
「やっぱりそう思うよね。でも、実際はこの能力、滅多に発動してくれなくて、自分でも困ってるんだ。本当に滅多に発動しないから、そもそも能力者を名乗っていいのかどうか」
「さすがに名乗っていいと思いますけど、そんな能力もあるんですね。お互い大変だとは思いますが、周りに流されずに頑張っていきましょう!」
 そう言って、励ますリョウちゃんという女の子。
 この女の子が、不安しかない俺の高校生活を劇的なものにするとは、この時は思ってもいなかった。


――入学式が終わり、俺は自分の教室である1年A組の教室に入った。
 席順は男女混合のあいうえお順。俺は苗字が「わ」で始まるから一番奥の席かと思ったが、そうではなくその1個手前らしい。入学式の時に隣にいた、リョウちゃんという女の子が一番奥の席らしい。
 座席表で名前を確認すると、和田量子(わだりょうこ)という名前らしい。量子だから量ちゃん、か。
 なんというか……、他意はないんだけど、名前の字面がそれっぽくて、髪型が長髪パッツンだから、座敷童がイメージとして浮かんできた。怖く暗い感じじゃなくて、普通にかわいくて明るい子なんだけど。
 自分の席についてしばらくすると、先生が来た。『入学のしおり』と書かれた書類を配り、説明を始める。この高校の歴史とか教訓的な内容とか、各種手続きとかいろいろ、頭がこんがらがる説明ばかり。
 一通り説明を終えると、
「それでは、少し疲れたでしょうし長めに休憩を取ります。周りには全国から集まった生徒たちがいて、中学までの知り合いなんていないでしょう。休憩時間中に周りの子たちと自己紹介でもして、顔なじみになっておいてください。では」
 そう言って、先生は退室した。


 クラス中で話し声が聞こえるが、あいにく俺はコミュ障だ。自分から声を掛けられないでいる。
 すると、
「あ、あの、剣也さん!」
 後ろの、量ちゃんという子から声を掛けられた。ネクラな俺にわざわざ話掛けるのかと思ったが、そもそも俺以外に話せる相手がいないのだ。
 この子は一番後ろの席。そして、この列だけ1席多くなっているため、この子の隣には誰もいない。だから、俺に声を掛けるしかなくなる。
 俺は誰とも話せないでいる最中、この状況に救われたのだ。
「えっと、量ちゃん、だっけ?」
 どう呼べばいいか分からなかったから、入学式の前に聞いた呼び名で、その子の名前を呼んだ。さすがに初対面であだ名はマズかったかな?
 でも、この子も俺のことを苗字じゃなく、下の名前で呼んでるから、まぁいいか。初対面で下の名前で呼び合うのは違和感があるけども。
「はい、和田量子こと、量ちゃんです! 小学生の頃、みんなから呼ばれていたあだ名なので、剣也さんも、良かったらそう呼んで下さい」
 小学生の子が『小学生の頃』って言ってるの、すごい違和感あるな。さっき、入学式前に盗み聞きしてた話によると、この子9歳だろ? 去年まで、小学3年生だったってことだよな。
 周りを見ても、小学生っぽいのはこの子だけ。あとは全員、見た感じは俺と同い年に見える。
 量ちゃんが話を続ける。
「さっき、会田(あいだ)さんとの話を聞かれてたかもしれませんが……」
 会田という子は、入学式前に量ちゃんが話していた女子のことだろう。さっきの入学式でもあいうえお順に並んでいたようで、おそらくその会田という子は隣のクラスだ。
「私の能力は、『波を操る能力』です。……ちょっとお見せしますね」
 そう言うと、量ちゃんは水筒のカップに水を注ぎ、そのカップの水面に指をつけた。
 指を入れたことにより、水面に波紋が広がる。その波はすぐに消えるが、
「いきますね」
 量ちゃんがそう言うと、その指から小さな波紋が、等間隔で生み出されていった。何秒経っても、その波紋は生成され続ける。なお、量ちゃんは水面で指を動かしたりしてはいない。
「この能力は、自由にどんな波も生み出したり、また生み出した波やすでにある波を自由に制御したりできます」
「制御ってのがよく分からないけど、要は今見せてもらったように、自由に波を生み出すことができる能力ってことか?」
「はい、だいたいそれで合っています!」
 量ちゃんは言った。ただ、続けて、
「もう少し正確に言いますと、波のパラメータを制御する能力になります。波には振幅、周波数、位相、速度、波長といったようなパラメータがありまして、私の能力はそういった波のパラメータを制御する能力になります。例えば、先ほどは水面に全く波が立っていない状態でしたが、言い換えれば水面には振幅ゼロの波が立っていたわけです。その振幅を私の能力で制御し、カップの水を波立たせた、ということなのです」
 ……やべぇ、何を言っているのか全然わからん。
 こういう文字の羅列を見ると、よく『めっちゃ早口で言ってそう』と思われるかもしれない。
 しかし、この子は普通の話す速さでしゃべっている。……内容理解できないから、早口で言ってほしかった。
 なんとなく、波を作りだすことはできるけど、それだけじゃないってことなのだろう。……うん、わかんないが、多分そういう意図だ。
「なるほど、お前の能力って、すごく奥が深いんだな」
 とりあえず、無難にこう答えておいた。
 すると、量ちゃんは目を輝かせて言う。
「はい! ついウンチクを語ってしまいましたが、ちゃんと聞いていただけていたのですね! とても嬉しいです!」
 良心が痛む。
 
 
「ところで、剣也さんの能力はどんな能力なのか、聞いてもいいですか?」
 量ちゃんが言った。特に俺の能力を隠す必要もないので、話すことにする。
「ああ。俺の能力は、『周囲を照らす能力』だ。使うとこんな感じで、少し明るくなる」
 俺は能力を使って見せた。俺が両手で覆った空間から、光がこぼれている。
「今、周囲をこの能力で照らすと目立つから両手の中に収めているが、俺の周囲ならどこでも、まぁまぁの明るさで照らすことができる」
「そういう能力でしたか。なんというか、変わった能力ですね」
「あぁ。しょぼい能力だ」
「えっ?」
 量ちゃんはキョトンとして言った。
「えっ?」
 なんで『えっ?』と言われたのかよくわからず、俺も同じ反応をしてしまった。
 量ちゃんが言うには、
「私はしょぼい能力だとは思いません。一般的に能力者が持っている能力は、何かと攻撃に使える能力が多いじゃないですか」
 実は、そうなのだ。生存本能が影響していると言われているが、能力者は大抵、相手を攻撃するための能力を持っていることが多い。
「でも、剣也さんは暗い場所を照らしたり、何かと実用的な能力をお持ちなので、変わった能力だなと思ったのです。しょぼいとは思いませんし、むしろ個性あふれる魅力的な能力だと思います!」
 ……この子、9歳のはずだけど、結構気が利くな。中学の友達からも、そんな言葉聞かなかったぞ? みんな、『能力というには、……なんかしょぼくない?』って感じの反応ばかりだったというのに。
「ありがとな。でも、すごいのは量ちゃんの方なんじゃないか? 9歳なのに飛び級で入学できたんだろ? 波を生み出す能力なら、もっと何かすごいことできそうだし、実際何かがすごいから飛び級できたんだろ?」
 あれ? 波を操る能力だっけ? 言い間違えたからか、量ちゃんが苦笑してる。ごめん。
 ただ、俺の問いに対し、量ちゃんは何か言いにくそうにしている。目線をそらし、言葉を選んでいるようだ。
 少し間を置き、量ちゃんは笑顔でこう言う。
「実は私、小学校でいじめにあっていたんですよ。物理学が好きで、大学とかで有名な量子力学の教科書を、小学校に持って読むようなガリ勉だったからか、目を付けられちゃって。それで色々あって、小学校に居づらくなった背景があるので、多分そういう理由で飛び級を認めてもらえたのだと思います」
 軽い口調ですごい重いことを、急にカミングアウトしたなコイツ。反応に困るわ。
「そうだったのか。……悪いこと聞いたな。すまん」
 こういう反応が無難か? もう口に出しちゃったし、マズい反応してても知らん。
 というか、コイツ大学の内容を小学校で勉強してたの? さっきの波のパラメータが云々といった説明も聞いててよくわかんなかったけど、めちゃくちゃ頭いいのでは?
 量ちゃんはまた言葉に困った様子。マジかよ、自分でカミングアウトしたんだろお前。俺もコミュ障なんだから、言葉に困らないでくれ。
「あぁ……っと、実は俺も小中といじめられててな。そんなに執拗な感じじゃなかったけど、つらいよな、いじめって」
 厳密に言うと、いじめではなく単にいじられていただけだが。俺はいじられるのがあまり好きじゃないから、それなりに辛かったのは本当だ。
「そうですね。共感してくれて、ありがとうございます。私たち、結構似た者同士なのかもしれませんね?」
 やっと、量ちゃんが口を開いた。
 ……似てるか? 俺はそうは思わんが。
「……かもな」
 とりあえず、無難にそう答えておいた。
 
 
 その日は授業もなく、いろいろと面倒な説明だけされて、下校することになった。
 他に仲良くなったやつもいないので、俺は量ちゃんと帰ることにした。
 この高校は好きなカバンで通学できるのだが、量ちゃんは赤いランドセルを背負っている。ランドセルって結構圧迫感ある気がするんだけど、煩わしくないのかなぁ。


 俺たちが校門を出ようとした、その時だった。
「そこのネクラとガキ、ちょっと待ちな」
 後ろから声がした。
 明らかな暴言だったが、間違いなく俺たちのことだろうと思い、振り向いた。
 そこにいたのは、ガラが悪そうな3人の女子。うち1人は、たしか伊賀野麻耶(いがのまや)だったか。やたら目つきの怖い女子だったから、名前覚えちゃったんだよな。
 他の2人は、伊賀野の周りの席にいたやつらで、今日伊賀野と結構話してたやつらだ。
 伊賀野は言う。
「勝手な話で悪いが、アタシらと能力勝負してくんないかなぁ?」
 能力勝負とは、簡単に言うと能力を使ったケンカだ。殴り合いの代わりに能力を使い、ルール無用の戦いをし、相手を先頭不能にすれば勝ち。
 ここは能力者の高校だが、能力勝負はただのガチなケンカなので、やっている人は滅多にいない。
「そんな、無理ですよ! 私は波を操る能力で、剣也さんは周囲を照らす能力。とても勝負にはなりません!」
 量ちゃんがそう言うと、伊賀野はにらみ、
「はぁ? そんなの関係ないね。アタシらは野望を抱えててね、強い能力者として名をはせたいんだよ」
「でしたら、私たちのような弱い人じゃなくて、もっと強そうな人に挑んだほうが……」
「強くなるにも、まずは弱いやつから相手にするのが王道だろ? まぁ、どうしても嫌だというなら、そうだな。実は、アタシら喉渇いてるし、小腹も空いてんだけど、持ち合わせがないんだよね。有り金全部くれるってんなら、見逃してやってもいいが」
 初日から、なんてとんでもないやつに目をつけられちまったんだ。
 このままだとマズい! 有り金全部取られるか、ボコられるかの2択だ! いや、ボコられても多分有り金全部取られるから、有り金を奪われるのは確定だ!
 どうする……!? クソ! 体がこわばって動かない! 大ピンチなんだぞ!? 動けよ! 俺の体!!
 そう思っていると、量ちゃんが俺の手を引っ張って、校舎の外へ走り出した。
「とにかく逃げましょう!」
 量ちゃんが言った。そうだ、逃げるしかない! 怖いからって動かずにいるのは、一番マズいことに決まってる。
 俺も全力で走り出すが、後ろから伊賀野たちが追いかけてくる。
「ハッ! 逃がすと思ってんのかよ!?」
 思ってないけど、こっちだって何としても逃げたいんだよ!
「そのまま足の速さで逃げられると思ってんのか? めでたいヤツだな、ここは能力者の高校だぜ?」
 伊賀野が言った。
 その言葉を聞き、何やらハッとなる量ちゃん。するとランドセルから財布を抜き出し、俺に手渡してこう言った。
「ごめんなさい! おそらく伊賀野さんには遠距離で攻撃できる能力があるので、私たち2人とも逃げ切るのは無理です! なので、私の財布を持ってそのまま剣也さんは逃げてもらえませんか!?」
「なっ!? それってどういう……」
 そう俺が言いかけた途端、
「これでも喰らえ! グラスファイア!」
 伊賀野の手から、何かが大量に放たれた。材質はガラスだろうか? キラキラと輝いている。
「アタシの能力は、『おはじきを放出する能力』。おはじきと聞くとダサいが、結構キラキラしててキレイで、イカすだろう? さらに、腐ってもガラスだからな。高速で放たれたコイツは、当たるとタダじゃすまないぜ?」
 初撃は避けれたが、追撃が俺を目掛けて襲ってくる。
 もうダメだと思った、その瞬間。
「がはっ!?」
 量ちゃんが俺の盾になった。
「えっ!? ちょっと、何やって……」
「いいですから! 私の財布を持ってそのまま逃げてください! どうか、私たちのおこづかいを守り抜いて下さい……!」
 俺の言葉を遮り、量ちゃんは言った。俺のは、おこづかいというより生活費になるのだが……、って、それどころじゃない!
 俺は量ちゃんの言う通り、その場から全力で逃げ去ろうとした。か弱い女の子を見捨てるなんて、自分でもどうかしていると思うが、そんなこと冷静に判断できる状態じゃなかった。
「逃げるのかよ? だったら、コイツはどうなってもいいってことだよな? 見てなよ……」
 伊賀野の声がする。俺は一瞬、後ろを振り向いた。
 すると、首根っこを捕まれ、思い切り顔面を殴られる量ちゃんの姿が、俺の目に映った。
 ……くそったれ。入学初日から、なんて悪夢だよ。
 伊賀野たちは、どうやらそのまま追ってくる気配はない。
 俺はそのまま、男子寮まで逃げ切ることができた。


 翌朝。
 ほとんど寝ることができず、食事も喉を通らなかった。昨日のあの悪夢のせいだ。
 ……悪夢であれば、現実でなければどれだけ良いことか。どうか夢であってほしいと思うが、あいにく量ちゃんの財布は俺の手元にある。
 憂鬱な気分で男子寮を出ると、そこに偶然、量ちゃんが歩いていて俺と目を合わせた。
「あっ、剣也さん! おはようございます! 昨日は無事、逃げ切れましたか?」
 量ちゃんが言った。
 量ちゃんは全身怪我だらけだった。昨日、最後に一瞬見た怪我具合よりもひどい。あれから伊賀野たちに痛めつけられたんだろう。
 9歳の女の子をこんなに痛めつけるなんて、なんてひどい奴らなんだ。……いや、ひどいのは俺か。庇ってくれたこの子を見捨てて、1人逃げだしたのだから。
「……ごめん」
 正直、何と口を聞いていいか分からない。開口一言、俺の口から出たのがその言葉だった。ごめんで済めば、警察はいらないだろうに。
 しかし、量ちゃんは笑顔で、
「何のことですか? 剣也さんは、私がお願いした通り、私の財布を守ってくださったのですよね? ……もしかして、財布は守り切れませんでしたか?」
「い、いや、そんなことないよ! ほら、これ!」
 俺は量ちゃんに財布を返した。
「ありがとうございます! ちなみに言っておきますと、怪我こそしてるものの、私は大丈夫ですよ。無駄に頑丈なので」
 そうは言うが、怪我の具合は本当にひどい。素人目に見ても分かる。なぜが量ちゃんはすごく元気だが、仮に俺がこんな怪我をしていたなら、向かうべきは学校じゃなく病院だろう。

 学校に着き、俺たちは教室に入った。
「……なんだよ、これは」
 何か俺の机が汚れてるなと思ってみてみたら、チョークやマジックで罵詈雑言の落書きがされていた。
 『死ね』『臆病者』『人でなし』『女の子すら守れない無能は退学しろ』などなど、……なんだよ、これは。
「やっと来たか、臆病者。その机、カラフルでいいデザインに仕上がってるだろ?」
 伊賀野が近づいてきて、声を掛けた。俺は怖くて身震いする。
 ここは教室。逃げ場などない。
 徐々に伊賀野が距離を詰めてくる。これは……完全に詰んだか。
 そう思った、その時。
「……許せません」
 隣で量ちゃんが言った。
「あぁ?」
 伊賀野の逆鱗に触れ、量ちゃんは首を捕まれ、持ち上げられる。
「てめぇ、昨日はよくも生意気なことをしてくれたな。あれだけ痛い目に遭ったのに、まだ分からないのか? アタシらはガキだからって手加減するような、甘優しい人間じゃな……ぐああぁっ!!」
 突如、伊賀野が苦痛で叫び出した。量ちゃんの指からレーザー光線が放たれ、伊賀野の体から煙が出ている。
「てめぇ、何しやが……ぐああぁっ!!?」
「ぎゃあああぁぁぁ!!!」
 伊賀野の取り巻き2人が量ちゃんに襲いかかろうとするが、同じようにレーザー光線に焼かれる。
「くっ、2人を傷つけるな!! アタシにコイツがあるのを忘れたか!?」
 レーザーの標的から外れ、解放された伊賀野は量ちゃんに手をかざした。
「ゼロ距離からのコイツは痛いぜぇ? グラスファイア!!」
 至近距離から、大量のおはじきが量ちゃんに放たれる。
 しかし、そのおはじきは量ちゃんを貫通し、取り巻き2人に当たる。
「ぐああああぁぁぁ!!!」
「ぎゃあああぁぁぁ!!!」
「なっ!? ……てめぇ、一体何をした!?」
 伊賀野は驚いて言った。量ちゃんは無傷だった。
 よく見ると、昨日受けた怪我もいつの間にか完治している。
 量ちゃんは、指を伊賀野に向けて言う。
「何をしたって、……ただ波を操っただけなのですが」
「ひっ!?」
 おびえる伊賀野。そんな伊賀野に、量ちゃんは容赦なく指を向ける。
「では、お覚悟を。指差光線(フィンガーレーザー)!」
 瞬間、伊賀野の悲鳴が教室中に響き渡った。


 しばらくして、
「みんな、おはよ……」
 教室に入った先生が絶句した。
 黒こげの伊賀野と、焼け跡とおはじきによる怪我で倒れている取り巻き2人。そして、量ちゃんが運んでいる俺の落書きされた机が目に入ったからだ。
 量ちゃんは俺の机を伊賀野の席に置いた後、伊賀野の机をまた俺の席に運び始めた。
「はぁ……」
 先生はため息をついて言った。
「量ちゃんがその能力を隠し通せるとは思っていなかったけど、ひどくやってくれたね。伊賀野さんも、これに懲りたら過激な活動はやめなさいね」
 能力を隠し通せる? つまり、量ちゃんは戦えない能力とか言っておきながら、結構すごい能力を持っていたということか?
 量ちゃんは俺に近づいて言う。
「机が汚なかったので、代わりに伊賀野さんの机を持ってきました。すぐに中身を入れ替えますね」
「あ、ああ……」
 この子は……一体?

キュリアと謙次 さいしゅうかい!

<前回までのあらすじ>
 自身の予知能力に操られ、暴走し、世界を脅威に晒した謙次。
 予知能力に操られることを恐れ、悩んでいると、予知能力から謙次のやるべきことを提示してきました。
 それは、9年間現代に戻り、難関大学に合格する等の無茶な課題をクリアすることで、予知能力に操られないレベルまで精神を鍛えるというものでした。
 謙次は決意を固め、キュリアをはじめとするさまざまな人に後押しされながら、現代へと帰りました。


<本編>
 しばらく時が経ち、キュリアは心を病みました。
 謙次は頼りない少年ではありましたが、キュリアにとっては過去を忘れさせてくれる、心の支えとなってくれる存在だったのです。
 1年間の謙次と過ごした日々。たった1年とはいえ、キュリアにとってはとても貴重な1年間であり、時が過ぎるごとにその1年間が恋しくなってくるのでした。
 3年を過ぎたあたりで、謙次が戻ってくるまでの年月を考えるのが嫌になり、キュリアは家にある日付を表示することができる道具、つまりカレンダーや時計、テレビなどを全て捨てました。
 あれから、……間違いなく年単位で時間は過ぎているものの、どのくらい経ったのか把握しないようにキュリアは過ごしていました。
 お金を使わず、また収入を得るようなこともせず、たまにやってくる正義の味方を倒すだけの日々。
 マリエル、ガイはキュリアの異常に感づいたようで、可能な限りキュリアの元に遊びに行ったり、バトルしたりして気を紛らわせようとしました。
 そのおかげで、多少なりとも精神を長く保たせることができていたようですが、
「私は、……もう限界だよ」
 キュリアは正義の味方の頭を鷲掴みにし、そう言いました。
 その正義の味方は、カラスに平安時代の服を着せたような姿をした、モンスターでした。
「ま、待て! 参った! マロっち参ったから!! 何をするつもりだ!?」
 通常のバトルでは行わないようなキュリアの奇行に、正義の味方は恐怖を感じているようです。
 キュリアは言います。
「良く考えてみるとさ、あの謙次が予知どおりの無茶な精神の鍛え方をできる保証はどこにもないんだよね。私が謙次に会いたいって想う気持ちを、謙次も同じように持っているとは限らないし」
「お前、一体何を言っているんだ?」
 正義の味方は顔をこわばらせて言いました。
 すると、キュリアは手に黒球を作りました。
 謎の引力を持っており、すごいエネルギーを感じる黒球で、……少なくともその黒球で攻撃されたら死ぬであろうと、正義の味方は瞬時に感じ取りました。
「ま、待て! マロっちモンスターだが人権持ちだぞ! お前は人を殺せるのか!? 冷静になって考えてみろ!!」
 キュリアは人を殺さないという情報を信じ、身の安全を確保した上でワンチャン、キュリアの抹殺を狙おうとやってきた正義の味方。
 しかし、その身の安全が脅かされた今、正義の味方は猛烈に抵抗します。
「お前は悪い人間だが、マロっちは悪くない人間! 殺していい道理などないはずだぞ!」
「……私は悪くない」
 正義の味方の言葉は、逆にキュリアを刺激したようで、
「さよなら……」
 ついに黒球を構えた手をキュリアは動かします。
 ……が、その時、
「いや、このモンスターが悪くないかはさておき、キュリア、お前は悪いぞ」
 突如現れた青年に腕をつかまれ、キュリアは攻撃を阻止されました。
「何せ、過去100人近くの罪の無い人を殺めた『ジェノサイド』なんだからな」
 長年聞いていなかった、懐かしい声。
 その声の聞こえる方向を振り向くや否や、キュリアはうれし涙をこぼして言いました。
「謙次!!!」
 感情があまって、思い切り謙次に飛びつくキュリア。
 それをしっかりと、謙次は受け止めます。
(作者:常人には耐えられない強い飛びつきでしたが、謙次はそれに耐えました。……ということは、謙次の予知能力を制御できる程度に、メンタルが鍛えられていることを意味します)
 え? どういうこと?
(作者:キュリアのこの飛びつきに耐えるには、①魔力を使う、②強化魔法を制御しキュリアの飛びつきに耐えうるよう肉体を強化する、という2つの条件が必須です。謙次の持つ魔力は、極めて微弱なもの。それを増強し、かつ強化魔法が使えたのは、謙次の予知能力を制御できているからに他なりません)
 ……まだ分からない。予知能力が使えれば、魔力も増強されて、強化魔法も使えるのか?
(作者:適切に制御されれば、の話ですけどね。フェニックスとの大戦の時、謙次が魔法を使えていた理由は、①予知能力が謙次を操り、『ミステリアスオーラ』という魔力増強魔法を発動させ、膨大な魔力を生成できたため、②予知能力が謙次を操ることで、どんな魔法でも使うことができたためです。予知能力は暴走した未来の謙次を予知することで、どんな魔法でも『未来予知』という情報伝達手段で謙次に魔法を使わせることができるのです)
 ……なんとなく分かった。その未来予知で謙次に魔法を使わせると、メン弱な謙次だったら身体をのっとられて暴走する。でも、メンタルが鍛えられた今の謙次は、暴走しないように制御しつつ、かつどんな魔法でも使える、ということか!?
(作者:そういうこと)
 何ということだ!? ヘタレゴミな主人公設定が最終回で一気に崩れたぞ!?
 ……と、謙次がそういう状態だということはキュリアも分かったようで、
「……勢いがあまってごめんね、謙次。でも今のを止めたってことは、もう大丈夫なんだよね! この時代に居ていいくらいに、精神を鍛えてきたんだよね!!」
「……ああ。……9年間、待たせてすまなかったな、キュリア」
「いいんだよ! でも、……その、謙次、お願いがあってね……」
 キュリアは、ややほほを赤らめながら、言葉をつむぎます。
「今見てたと思うけど、私、謙次がいなきゃダメみたいなんだ。謙次と一緒に過ごした日々が忘れられなくて、……それでね、それが愛しくてダメになっちゃうんだ。……だから、もし謙次が良かったらさ、……私と、一生を共に過ごしてくれないかな?」
 キュリアの言葉を聞き、謙次は顔を真っ赤にして俯きました。
 ただし、すぐに正面を向き、やさしい顔でこう言います。
「そのために俺は戻ってきたんだ。そのつもりだよ。……だからキュリア、この先ずっと、よろしくな」
 その言葉を聞き、キュリアは感極まり、大泣きしました。
 一度だけ聞いたことのある、キュリアの大泣きの声。
 クオリア障害のせいか、意味不明な言葉とともに、キュリアは涙を流します。
 その声は島中に響き渡り、それに呼応するかのごとく、島中の鳥やモンスターたちが鳴き声を上げます。
 それはまるで、キュリアと謙次の再会を祝福するかの如く……
(作者:……こんな終り方しか思いつかなかったんですが、これでいいよね!)
 ΩND!!!
ΩND


↓ 以下あとがき ↓

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キュリアと謙次 よんひゃくさんじゅうよんかいめ!

ケーケー「2011年8月4日。……この日が何の日か、お分かりでしょうか?」
イノブン「は? 知らないけど」
ケーケー「『キュリアと謙次 いっかいめ!』の更新日です」
イノブン「……どうでもいいけど、この小説、始まってからもう6年と8ヶ月になるんだな」
ケーケー「どうでもいいって言わないで……。そして、その小説も、次回で最終回となります」
イノブン「……それがお前の悩みに悩んだエイプリルフールネタか? 面白くも何ともないぞ?」
ケーケー「違うから! 嘘ついたわけじゃなくて、ホントのことだから!!」
イノブン「……でも、お前のことだから『実際書いてみたら、1回分に収まりきりませんでした、てへ☆』って感じになりそう。……と思ったけど、最近お前、次回1回分ストックしてるんだっけ?」
ケーケー「いや、どうせ来週に1回分書けば終わるから、今週はストック書くのサボった」
イノブン「おい。……嫌な予感しかしないぞ。頼むから『やっぱ先週の最終回予告はエイプリルフールってことにさせてください……』なんてオチにしないでくれよな」
ケーケー「大丈夫。仮に3回分の内容になっても、頑張って来週書き終えるから大丈夫」
イノブン「人はそれを大丈夫とは言わない」


<前回のあらすじ>
 元の時代に帰る謙次を見送るために、謙次と縁のある人がキュリアの家の前に集まりました。
 ガイ、マリエル、シーノ、フェニックスが、これから旅立とうとしている謙次に、思い思いの言葉を送っていました。


<本編>
 その他、いろんな人が謙次に声を掛けました、
 最期に、
「謙次、本当に元の時代に帰っちゃうんだよね」
 謙次と縁のある人が集まっている中、キュリアが謙次に言いました。
「あぁ、そうだ」
 謙次が答えました。
「……その、私が謙次の元居た時代についていくのも、ダメなんだよね?」
 悲しそうな表情で、キュリアが尋ねました。
 謙次は答えます。
「あぁ。キュリアがついてきたら精神を鍛えられないだろうから、俺は一生この時代には戻って来れないだろうさ」
 キュリアがこの時代に居られないということは、若返りの呪文『ハイジュ』を使えないということ。今の年齢の倍近く生きることはできますが、己の死を第一に恐れるキュリアにとって、その選択肢は選べないのです。
「キュリア、……悪いけど、もう俺に迷いはない。……9年後、また会おう」
「……そっか。じゃあ、一つ呪文を掛けさせて」
 謙次の言葉を聞き、満面の笑顔を見せるキュリア。
 キュリアはクオリア障害ということもあり、嬉しい場面や悲しい場面での感情が他の人と異なることが多いです。
 今回も、何をもって満面の笑みを見せているのか、……もしかすると、謙次の足かせになるまいと気丈に振舞って作り笑顔をしているだけなのかもしれませんが、この満面の笑顔の意図が分かりません。
 そんなキュリアが謙次の頭に手をかざすと、謙次が光り輝きます。
「えっ!? ちょ!! ……一体何したの!? キュリア!?」
 驚く謙次の手前に、等身大の鏡が置かれます。
 謙次はその鏡で自分の姿を見ると、……全体的に雰囲気が少しだけ幼くなったような感じでした。
 今、キュリアが謙次に掛けた呪文は、若返りの呪文『ハイジュ』。
 謙次がこの世界で過ごした1年分、若返らせることで元居た時代に容姿を気にせず戻ることができます。
 これは言わば、キュリアからの無言の後押し。
 その意図に気付き、謙次は、
「……ありがとな、キュリア。また9年後……」
 そう言い残し、この時代を去りました。
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ケーケー

Author:ケーケー
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